【あらすじ・ネタバレ・感想】『沓掛時次郎』(大映/1961年)

こんにちは、館主のおのまとぺです!!

生まれは信州沓掛宿、金にはなびかぬが人情には脆い、そんな一人の任侠を主人公とした映画『沓掛時次郎』の1961年・大映版を鑑賞しましたのでレビューしていきます!!

作品情報

  • 公開日:1961年6月14日
  • 上映時間:86分
  • 配給・製作:大映
  • 主題歌:『沓掛時次郎 浮名の渡り鳥』(作詞:佐伯孝夫/作曲:吉田正/歌:橋幸夫)

あらすじ

流れ者の任侠・沓掛時次郎(市川雷蔵)は、溜田の助五郎(須賀不二男)の一宿一飯の恩に報いるため、溜田一家の六ツ田の三蔵(島田竜三)への殴り込みに助太刀する。 時次郎は三蔵に一太刀だけ浴びせるが、これで恩は返したものとして、命までは奪わず見逃した。 しかし、三蔵はその後の逃走の途中で助五郎一派の待ち伏せに遭いなぶり殺しにされてしまう。 その場に居合わせた時次郎は、助五郎が三蔵の女房のおきぬ(新珠三千代)を手に入れる為に三蔵を斬ったことを知ってしまう。 義憤に駆られた時次郎は、その場にいた助五郎の一派を峰打ちで叩き伏せ、先に逃げていたおきぬと息子の太郎吉(青木しげる)を守ることを誓う。

キャスト

  • 沓掛時次郎:市川雷蔵
  • おきぬ:新珠三千代(東宝)
  • おろく:杉村春子
  • 六ツ田の三蔵:島田竜三
  • 太郎吉:青木しげる
  • 聖天の権威:稲葉義男
  • 八丁畷徳兵衛:志村喬(東宝)
  • 赤田三十郎:千葉敏郎
  • 溜田の助五郎:須賀不二男
  • おとわ:滝花久子
  • 源右衛門:荒木忍
  • 玄庵:志水元
  • 大野木の百助:村上不二夫
  • 苫屋の半太郎:寺島貢
  • 磯田の鎌吉:木村玄
  • 政吉:高倉一郎

主演は当時の大映の看板俳優の市川雷蔵さん、おきぬと八丁徳は東宝からの出演で新珠三千代さんと志村喬さん。 新珠さんはもともとタカラジェンヌで退団後に日活に入社し、さらにその後東宝に移籍されました。 志村喬さんは黒沢作品常連で、その他にも本多猪四郎監督の『ゴジラ』や松竹の『男はつらいよ』などにも出演された大俳優です。 荒木忍さんは1936年の沓掛時次郎にも出演されています。 クレジットはされていませんが、大映の常連脇役の石原須磨男さんも出演されています。

スタッフ

  • 監督:池広一夫
  • 撮影:宮川一夫
  • 録音:近藤正一
  • 照明:中岡源権
  • 美術:西岡善信
  • 音楽:斉藤一郎
  • 色彩技術:田中省三
  • 編集:谷口考司
  • 装置:三輪良樹
  • 擬斗(殺陣):宮内昌平
  • 助監督:国原俊明
  • 製作主任:吉岡徹

感想

内容は痛快な任侠ものです。 舞台は現代の埼玉県と群馬県、あとおそらく栃木県。 沓掛時次郎が死に際の三蔵に告げた誓いを果たす為に奔走する物語でした。 その中で芽生える時次郎のおきぬと太郎吉に対する家族愛の様な感情や、悪党もいれば人情に厚い人たちもいるという人情ものの側面も描いています。 結末は爽快とまで気持ちのいいものではありませんが、ちょっとホロッとくるエンディングになっています。

殺陣のシーンも多くアクション映画としても楽しめました。 市川雷蔵さんの殺陣といえば眠狂四郎に代表される様に、美しい太刀筋で鮮やかに相手を斬っていくスタイルが想起されますが、本作では樽の後ろに隠れたり、馬小屋を焼き払って相手を倒したり任侠らしく泥臭い殺陣を展開しています。 任侠らしいセリフ回しも大変格好がいいです。

なお、沓掛時次郎は幾度となく映画化されていますが、本作と年代の近いものだと萬屋錦之助さんの『沓掛時次郎 遊侠一匹』があります。 同じテーマながら、こちらも違うテイストで大変面白い映画でした。

※ここからネタバレあり!!

作品の内容としてはどちらかといえば典型的な勧善懲悪の時代劇で、一度堅気になった時次郎がまたヤクザに戻って結局おきぬ達のもとを去っていくというのは、アラン・ラッド主演の『シェーン』(1953年)のストーリーに通ずるものです。 下手したら凡作になってしまいそうなものですが、池広監督の采配をはじめ市川雷蔵さんのメリハリのある演技や杉村春子さんの様な名女優による熟練の演技が作品に華を添えています。 さらに、日本映画を代表する名カメラマン・宮川一夫さんの撮影が画面をとても印象的なものにしています。

宮川一夫さんのカメラワーク(※ネタバレあり!!)

オープニングからとても美しい映像です。 夕日をバックに旅路を急ぐ時次郎のシルエットが映し出されます。 今回の作品は木立の中や夕暮れ、夜の街など暗いシーンが多く、照明の当て方などに工夫が凝らされています。

個人的に印象に残っているのは、作品後半の『八丁徳一家に殴り込みに行こうとする聖天の権威と助五郎の手下たちが酒樽を割ってひしゃくから酒を飲むシーン』です。 短い映像を連続で繋いだスピード感のあるシーンですが、よく見ると酒を飲んでいる手下を足元から角度のあるアオリで撮ったり、照明を奥から当てて映像に個性を持たせてみたりと興味深い撮り方をしています。

また、宮川一夫さんは俳優の表情の撮り方に並々ならぬ情熱を注がれていたそうで、なんと作品によっては自ら俳優さんにメイクをすることもあったそうです。(※1) あえておきぬに心情を語らせず、新珠三千代さんの顔のアップを代わりに映すシーンがありますが、その美貌とカメラワークが相まって観ているものの心に迫るシーンになっています。

おきぬが亡くなった直後のシーンで、真っ暗な隣室からおきぬの横にしゃがみ込む時次郎を斜め後ろから映すシーンも素晴らしいですね。 陰影が活きる映像の多い作品でした。

出典

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