こんにちは、館長のおのまとぺでございます
今回は1967年の大映作品『女賭博師』をご紹介致します。 江波杏子さん主演のヒットシリーズ・女賭博師シリーズの第2作です。
作品情報
- 公開日:1967年7月15日
- 上映時間:85分
- 配給・製作:大映
あらすじ
凄腕の胴師・絵森源造を父に持つ夏江は、表向きはピアノバーの主人であったが裏の顔は父と同じく胴師であった。 彼女には田上という写真家の恋人がおり、ピアノバーの2階にスタジオを作ってやったり、彼に仕事を与えるため化粧品メーカーの宣伝部長に体を許したりするほど深く彼を愛していた。 源造の弟子で夏江の側近を務める松吉は、夏江が田上に尽くすその姿を苦々しく見つめていた。 彼は夏江に恋心を抱いていたのである。
ある日彼女が胴師を務める賭場に滝子という女子大生が現れる。 賭場に女子大生とは場違いにも思えたが、彼女は恐るべき執念で夏江の手札を当てて金を増やしていく。 それを見た夏江は若い女を賭博の道に落とすまいと、最後の最後で持ち金すべてをかけた滝子を負かして博打の恐ろしさを教える。 滝子はすべての金を失うと恐ろしい目で夏江をにらみつけ賭場を後にした。
翌日、恋人と心中を図った滝子が発見されるが、幸い滝子は一命をとりとめる。 横領を犯した恋人のために、賭場でお金を増やそうとしていたことを知った夏江は良心の呵責を感じるのだった。 その後息を吹き返した滝子は復讐のために田上のもとへ現れ、自ら一糸まとわぬ姿になって写真を撮らせて情事に及んだうえ、さらに後日博打嫌いの田上に夏江が胴師であることも告げ口して彼を夏江から奪い取ってしまう。
夏江の身に降りかかる災難はこれだけではなかった。 ピアノバーの常連であるグローバル工業の社長・磯部は夏江を自分のものにしようとたびたび彼女に言い寄っていた。 彼は犬猿の仲である東京と名古屋のヤクザを一同に集めた大きな花会を企画し、この胴師を夏江にやらせて華を添えようと考えていた。 しかし、夏江はこの華やかな花会を父の引退の花道にふさわしいと考え、彼に胴師を務めさせてあげて欲しいと磯部に直訴する。 そして、その代償として磯部の求婚を受け入ることを告げる。
そして花会の当日、名古屋側は組長が急病で参加せず東京側が憤慨し一時不穏な空気が流れたが、世話役の磯部の計らいで事なきを得て東京のヤクザのみでの花会開催となった。 源造はその盆で衰えぬ腕前を存分に披露したが、何者かの通報によって花会の会場に警察が踏み込んでくる。 混乱の中拳銃を手渡された源造は警察に取り囲まれて進退窮まったのち、自ら頭を撃ちぬいて自死を遂げる。 一方、やくざの親分衆のうち3人は磯部の手引きで地下へと逃げおおせていた。
源造死亡の報せを聞いた夏江と松吉は、花会を密告した黒幕を突き止め復讐を遂げるために動きだすのだった。
スタッフ
- 監督:弓削太郎
- 原作・脚色:松浦健郎
キャスト
- 絵森夏江:江波杏子
- 絵森源造:加藤嘉
- 浅川滝子:川口小枝
- 松吉:山田吾一
- 田上雄二:本郷功次郎
- 磯部達雄:内田良平
- 寺内小吉:高村栄一
- 砂橋宣伝部長:早川雄三
- 菊田五平:内田朝雄
賭博シーンについて
賭博シーンが多く登場しますが、現代では馴染みがないのでわかりづらいところがあります。 私自身調べてみないと理解できないことばかりでした。(調べた後もルールは未だによく理解できていません笑)
登場する賭博用語
- 胴師(どうし)・・・賭博を仕切るディーラーの様な役目です。 源造や夏江が仕事としています。
- どうづら(とうずら?)・・・冒頭のシーンで世話人らしき人が発言していますが、一千万と言っているのでおそらく胴前と同じ意味と思われます。 胴が用意しているお金のことです。
劇中で行われている賭博
こういった映画で登場する賭博というのはサイコロを振って『丁!』『半!』とやるいわゆる丁半博打が大半ですが、この映画では札を使った『手本引き』というゲームで賭けが行われています。
ルールが難解で理解するのは容易ではありませんが、簡単にいうと胴師が出す札の数字を当てる博打です。 丁半がサイコロの目を当てる完全に『運』のゲームであるのに対して、手本引きは胴師が札を選べるため客との間で心理戦が行われます。 参加者は胴師の性格やそれまで出した札の傾向から次の手を読みます。 これが当たった時の高揚感は他の博打の比ではないそうで、『博打の終着駅』などと呼ばれることもあるそうです。
こういったゲーム性があるため源造の様な手練れの胴師は重宝された様です。 だからこそ源造は夜遅くまで練習を欠かさなかったのでしょう。 夏江も最初のシーンで滝子をピンポイントでマークして潰すという高度な技量を見せていました。 逆にもし胴師の力量がなかった場合、すぐに胴前が尽きて場が白けてしまうんでしょうね。
感想(※ネタばれあり)
本作は1967年制作です。 オープニングで赤坂や銀座などが映りますが、現代との街並みの違いがとても興味深いですね。 また、当時できて間もない首都高や新幹線、建設中の高層ビルなど高度成長期の元気な日本が垣間見られてうらやましく感じました。 私の世代だと産まれて以来、不景気不景気としか聞いたことがありません・・・。 しかし、結構交通量のある道の歩道でバレーボールやってるのはどうかと思いますね笑
江波杏子さんの美貌とカッコよさ
最初からいきなり入浴シーンではじまるのでドキドキしてしまいますね。 江波さんの肌がとても綺麗で見とれてしまいます。 また、シャープな美貌が決め台詞である『入ります』の一言に迫力と華を添えています。 本来男の世界である賭場に背筋を伸ばし、凛と座る姿は実に格好よいです。 江波さんの鋭いイメージが川口小枝さん演じる滝子と好対照を成しているのが面白いところ。
しかし、一方で田上との逢瀬の後に恥じらいながら髪をいじるところなど女性らしさがのぞくシーンもあったり、父親のいる家に帰った時は少女の様に笑顔で話したりと迫力のある表情だけでないところもまた魅力的です。
博打と女同士の戦いのスリル
私は幸いにして博打をやったことはありませんので想像もしませんでしたが、この『手本引き』というゲームは映像でもなかなかハラハラさせられます。 もちろんこれはスタッフ陣による演出や俳優さんたちの演技の技量があってのことでしょうが、『入ります』の一声ののちに布で手元を隠し、背中の後ろに回した片手で手札を繰るという静の動作があったあと、合力たちの『どうぞ!どうぞ!』という動の動き、そして博徒たちが掛け金をたたきつけるという一連の流れはアクセルとブレーキを交互に踏んでいるかの様なスリルがあります。 またその間に博徒たちが額に汗して夏江の腹を探ろうとするカットなどが差し挟まれさらに緊張感を増しています。
このスリル感にさらに『女同士の戦い』という不穏なエッセンスが加わってくるのが、夏江と滝子の1対1の勝負です。 特に名古屋の五平親分のもとでの一番はどっちが勝っても失うものが大きく、作中で最もスリリングな勝負となります。 大事なもの(もしくは大事なこと)を賭けた盆の外で個人的な勝負というシチュエーションは次作『女賭場荒らし』でも受け継がれています。
ちょっと単純すぎる展開
ストーリーの展開には不満がありました。
磯部の企みに呆気なくだまされる親分衆ですが、ちょっとばかり間抜け過ぎる気がします。 親分たちはその地位にたどり着くまで、幾度となく修羅場をくぐってきた海千山千の渡世人のはずですから、もっと他人の目論見について鼻が利いてもよさそうなものです。 ともすれば名古屋のヤクザと東京のヤクザが全面戦争になっていたかもしれない大変な状況であったわけですから、本来ならヤクザたちが最も陰謀を警戒する局面だったはずです。 このあたりは少々設定に無理があるんじゃないかと思いました。
あと名古屋の親分のところでたまたまタイミングよく夏江と滝子が出くわすのもご都合主義が過ぎると思いますね。 そもそも滝子は田上と同居していたはずなのに、二人はいつの間に名古屋に引っ越したんでしょうか?
あとはラストですが、松吉がとどめを差さずに電話できる程度の息を残して磯部を生かしておいた意味がよくわかりません。 復讐である以上、普通ならしっかりととどめを刺すでしょう。 夏江にとっては親の仇であり、松吉にとっては師匠の仇。 その上で夏江を嫁にとろうとしたとんでもない不届きものです。 いささか詰めが甘すぎます。
しかし、そんな不満点がありながらも、賭博のスリルが全体に漲ったオススメの作品です。 ソフトな内容なのでヤクザ映画や賭博映画の入口としても最適ではないでしょうか。
それでは、またお会いしましょう。