こんにちは、館主のおのまとぺです!!
今回は萬屋錦之助さん主演の一匹狼の任侠映画『沓掛時次郎 遊侠一匹』 の感想です~
作品情報
- 公開日:1966年4月1日
- 上映時間:90分
- 制作:東映京都撮影所
- 配給:東映
あらすじ
旅をしていた沓掛時次郎と身延の朝吉は、佐原の勘蔵一家に厄介になった際、牛堀の権六一家との出入りに巻き込まれてしまう。 渡世人の世知辛さを知る時次郎は助太刀をせずに立ちさるが、人のいい朝吉は一人牛堀一家へ殴り込み返り討ちにあって殺されてしまう。 怒った時次郎は牛堀一家を皆殺しにして再び旅に出た。
道中で渡し船に乗った際、同じ船に乗り合わせた母子からよく熟れた柿を手渡されたのをきっかけに、しばらく旅をともにすることになった。 二人と別れた時次郎は鴻巣の金兵衛一家のもとに草鞋を脱ぐが、ここでもまた中野川一家との抗争に巻き込まれる。 もう人を斬ることに嫌気がさしていた時次郎だったが、金兵衛から直々に六ツ田の三蔵を斬る様に頼みまれこれを承知する。 一騎打ちにおいて三蔵を討ち取った時次郎は、三蔵から最期の頼みとして母子の身を託される。 義理堅い時次郎は約束を果たすため、三蔵が母子と合流する予定であった場所へ行ってみると、 なんと三蔵の母子とはあの渡し船で一緒になった二人なのであった。
スタッフ
- 監督:加藤泰
- 脚色:鈴木尚之、掛札昌裕
- 原作:長谷川伸
- 企画:小川三喜雄、三村敬三
- 撮影:古谷伸
- 美術:井川徳道
- 音楽:斎藤一郎
- 録音:渡部芳丈
- 照明:中山治雄
- 編集:宮本信太郎
- スチール:中山健司
キャスト
- 沓掛時次郎:萬屋錦之介
- おきぬ:池内淳子
- 太郎吉:二代目中村錦之助
- お葉:弓恵子
- 佐原の勘蔵:高松錦之助
- 定吉:那須伸太朗
- 毛脛の半太:小山田良樹
- 子分一:松下次郎
- 中盆:志賀勝
- 壺振り:結城哲也
- 牛堀の権六:中村時之介
- 蝮の大八:小田部通麿
- お松:三原葉子
- やくざ一:岩尾正隆
- やくざ二:西田明
- やくざ三:平沢彰
- 渡船の百姓一:島田秀雄
- 渡船の百姓二:山田光子
- 鴻巣金兵衛:堀正夫
- 大野木の百助:尾形伸之介
- 磯目の鎌吉:有川正治
- 苫屋の半太郎:江木健二
- 平六:波多野博
- 子分:高谷瞬二
- 六ッ田の三蔵:東千代之介
- 熊谷在の百姓:五里兵太郎
- 昌太郎:岡崎二朗
- 医者:村居京之輔
- 深谷の松造:飯沼慧
- お槙:中村芳子
- 安兵衛:阿部九洲男
- おろく:清川虹子
- 八丁徳:明石潮
- 身延の朝吉:渥美清
感想
萬屋錦之助さん演じる沓掛時次郎は、渡世稼業の世知辛さを知っているためかどこか飄々としていますが、ヤクザに憧れる朝吉や昌太郎を強くいさめるなど人情に篤いヤクザでした。 また、おきぬ親子が姿を消した後は一人飲んだくれるなど繊細なところもあり人間的な魅力にあふれた主人公です。
劇中では真っ赤な柿や折れた櫛の様なアイテムが登場したり、時次郎が草鞋を買う時に子供用の草鞋を一足嬉しそうに追加したりと小物と人の心情を結び付けた演出が印象に残りました。 また先述の時次郎が飲んだくれているシーンでは、こたつに居る時次郎の周りが暗闇になり、そこに深々と降る雪を映すことで一年が過ぎたことを表現するというのもとても美しくて、切なくて印象に深く残る映像でした。 結構隅から隅まで見どころにあふれた映画だと思います。
大映雷蔵版との違い
沓掛時次郎を演じた俳優は数多く存在します。 大河内傅次郎、島田正吾、長谷川一夫、鶴田浩二などそうそうたる俳優たちが演じてきましたが、今回は年代も近い市川雷蔵版(大映・1961年)との比較を少々してみたいと思います。 寡聞ゆえ見方の浅はかな部分も多々あるとは思いますが、そこは長い目で見ていただけると幸いです。
朝吉とのエピソード
最初の大きな違いは朝吉とのエピソードです。 本作では朝吉に渥美清さんをキャスティングしていて、前半では主役の萬屋錦之助さんを食うほどの存在感を見せつけています。 また冒頭で時次郎を真似て見栄を切るシーンがありますが、これがさすがの活舌と威勢の良さで序盤の見どころの一つです。 また、牛堀一家に一人斬り込んだ際の朝吉の立ち姿がスッと背筋が伸びていて、絶望的な場面にも関わらず画面がパッと明るくなる様に感じました。 世紀の喜劇王・渥美清の股旅姿、ぜひチェックしてみてください。
おきぬと六ツ田の三蔵
雷蔵版でのおきぬは途中で身重であることが発覚しますが、本作ではそう言った設定はありません。 また本作ではお絹が三味線を弾くシーンが二人の心の距離を象徴する場面となっていますが、雷蔵版ではおきぬの三味線に合わせて時次郎が唄を歌い堅気として日銭を稼ぐという演出になっています。
また、雷蔵版での六ツ田の三蔵は時次郎に一太刀だけ斬られたのち、溜田の助五郎一派になぶり殺しにされてしまいますが、本作では時次郎が三蔵を斬り、最期におきぬの櫛を受け取るという重要な演出が織り込まれています。 あくまで正義の味方としての時次郎を描いた雷蔵版と、より大きな闇を抱えたダークヒーローとしての時次郎を描いた錦之助版の大きな違いとなっています。
映像について
殺陣においては東映の名物ともいえる血しぶきもてんこ盛りの演出で、映像自体はかなりえぐい描写も含んでいます。
なお、本作の撮影は東映のカメラマンとして多くの作品をとった古谷伸さんです。 ローアングルを活用した特徴的な映像が随所で見られます。 これは舞台を観る観客の目線に近づける効果を狙ったものだそうです。(※1) たしかに室内で話している何気ないシーンでも、床にカメラが置いてあるんじゃないかというほどのローアングルで観ていると、生の演技を見ているかの様な臨場感があります。 遠くからのアングルを活用した雷蔵版の宮川一夫カメラマンとの個性の違いが出ている様に思います。
八丁徳のキャラクター
雷蔵版では八丁徳に名優・志村喬を据え、人間味あふれるキャラクターとして描くことで時次郎が助太刀する理由付けをしていました。 一方、本作では八丁徳についての描写はあまりなく、あくまで金のために助太刀をするという展開にとどまっています。 お絹の様子と出入りの様子がカットバックで進行していきますので、八丁徳のキャラクターまで描いて煩雑になるのを避けたのかもしれませんね。
出展
- ※1:講演「特集 現代日本映画 2002-2004」(アテネ・フランセ文化センターhpより)