【あらすじ・ネタバレ・感想】『銭形平次捕物控 死美人風呂』(大映/1956年)

こんにちは、館主のおのまとぺでございます。

本日は長谷川一夫さん主演による時代物の名キャラクター・銭形平次シリーズ『銭形平次捕物控 死美人風呂』をご紹介します。

作品情報

  • 公開日:1956年2月11日
  • 上映時間:90分
  • 制作・配給:大映

あらすじ

仙台藩主・伊達陸奥守は長く病に伏し、世継ぎも無かった為に江戸定府は伊達主水正を担いで藩主に据えようと画策していた。 一方、国表の家老は陸奥守にはご落胤があり、乳母とともに両国の見世物小屋に入ったという。 これを調べるため剣持礼之進が江戸に派遣されるが、見世物小屋の主人・悟自斎が言うには、娘は三人おりご落胤の目印となる乳房のアザが三人とも同じところにあるのだという。 どの娘がご落胤なのか判然としない中、世継ぎの殺害を目論む主水正は乳房にアザのある18になる娘を片っ端から殺していくのだった。

スタッフ

  • 監督 加戸敏
  • 製作 酒井箴
  • 原作 野村胡堂
  • 脚色 小国英雄
  • 企画 浅井昭三郎 、 福島通人
  • 撮影 牧田行正
  • 音楽 万城目正
  • 美術 太田誠一
  • 録音 海原幸夫
  • 照明 伊藤貞一

登場人物

  • 銭形平次(長谷川一夫):神田明神下に御用を預かる目明し。 刺客と礼之進の争いに巻き込まれたお鶴を助けたことで事件に関わることになる。
  • お鶴(美空ひばり):軽業師の少女。 両国の見世物小屋で働いている。 
  • お静(阿井美千子):平次の妻。
  • お妙(三田登喜子): 伊達家の乳母の三人の連れ子のうちの一人。  伊勢屋という裕福な商人の家にもらわれた。
  • お千代(小町瑠美子):伊達家の乳母の三人の連れ子のうちの一人。 小料理屋に引き取られた。
  • お歌(浜世津子):主水正の愛人。 主水正のために次々と暗殺を働く。
  • 八五郎(川田晴久):平時の子分の岡っ引き。 礼之進のお供の松助が斬られて倒れているところを発見し救助した。
  • 熊八(山茶花究):お歌の子分。 お鶴のあとを付けて情報を収集する。
  • 伊達主水正(市川小太夫):次期藩主の候補となっている。 藩主の座をわがものとするため、礼之進と見世物小屋の娘たちの暗殺を狙う。
  • 剣持礼之進(大河内傳次郎):仙台藩の侍。 藩中随一の江戸弁の使い手を自称するがかなり訛っている。 抜けているところもあるが、剣の腕は相当のもの。
  • お常(大美輝子)
  • お品(若杉曜子):女岡っ引き。 風呂に落ちていた針とお雪の腕のアザから、死因が毒殺であると見抜く。
  • お雪(真風圭子):軽業師の少女。 お鶴の先輩にあたる。 銭湯で殺害され最初の犠牲者となる。
  • 悟自斎(寺島雄作):見世物小屋の主人。 剣持が仙台藩の密命を受けていることを見抜き協力する。
  • 彫辰(東良之助):三人の連れ子の乳房にアザの入れ墨を彫ったとされる刺青師。
  • 大道寺玄蕃(光岡龍三郎):主水正一派の侍。
  • 伊達陸奥守(葛木香一):仙台藩藩主。 病床に長く伏しており、世継ぎもないためお家騒動が起こる。
  • 六蔵(石原須磨男)
  • 伊達将監(原聖四郎)
  • 小僧八海(西岡タツオ):尼寺の小僧。 寺を訪ねてきた八五郎を追い返そうとする。
  • 伊勢屋重右衛門(玉置一恵):伊勢屋の主。 お千代を引き取って育てていた。

※お常、六蔵、伊達将監についてはどれが当該キャラクターなのかわかりませんでした。 お分かりになる方がいらっしゃったら、ぜひコメントをお願いいたします。

感想

ストーリー自体は平凡で、作品も凡作と言ってしまってもいいかもしれません。  しかし、三人の大スターが共演しているということで、それぞれの存在感はすさまじいものがあります。 白黒でも画面が華やぐ様な華やかさでした。 また平次が十手片手に投げ技や投げ銭を披露したと思えば、剣を左手に片手で360度の大立ち回りをする礼之進、そして二人が時間を稼いでいる間に綱を渡って渡河するお鶴と息の詰まるアクションシーンは白眉でした。

三つ巴の存在感

主演の長谷川一夫さん、助演の大河内傅次郎さんの存在感がすごいです。 平次は穏やかでニコニコしているかと思ったら、何かに築くとカミソリの様な目つきに代わります。 画面が一瞬他の登場人物に切り替わって、平次に戻ったと思ったら急に目つきが豹変していたりするので背筋がちょっと冷えました。 さすが、目千両の長谷川さんです。 目に説得力があります。

そして大河内傅次郎さんは仙台弁でちょっとまぬけな侍の役を好演していました。 丹下左膳では豊前訛りのセリフで好評を博していた大河内さんですが、東北の方言まで演じることができるんですね。 また演じた役の礼之進は『左礼之進』と呼ばれる左手での剣の使い手ということですが、これもちょっと丹下左膳にかぶっていて面白いです。

三枚目的な役柄はやたらと大げさな演技になりがちですが、ヌケた感じを出す所作などもとても自然でした。 表情や話し方などで総合的にキャラクターを作り上げており、殺陣だけでなく演技の実力も兼ね備えたスターなのだとよくわかりました。

そして、三つ巴のもう一角が美空ひばりさんです。 上記の時代劇六大スタアに数えられる二人を相手に堂々たる演技を披露されていました。 さすが昭和の大スター、若いころから只者ではありません。 この映画のときにはまだ十代です。 そんな少女がこの二人を相手にこれだけの存在感を残すのは並大抵のことではないでしょう。 1951年に14歳の美空ひばりさんと共演した嵐完寿郎さんもその演技に驚きのコメントを残されているそうです。

※ここからネタバレあり

事件の内容はそんなに難しい話ではありません。 犯人はわかっていますし、ご落胤についても最初のシーンでお鶴が『親の顔が見えぬ』みたいな歌を歌っていますし、昔のポスターでもものによってはお姫様の格好をしています。 バレバレですね笑

しかし、明快に見えるこの作品ですが観終わった後にあまり爽快感がありません。 なぜかといえば、あまりに自分勝手なお鶴の振る舞いがあるからです。 腹違いといえども姉死んでも悲しみもせず、自分がご落胤だとわかるや否や捜査の妨害工作に走り、3人の姉(他人を含めればさらに4人)を犠牲に大名の娘に戻ったにも関わらず『自分は大名の娘になんてなりたくない』の一点張りで何の悔悟もありません。 これは劇中で語られる平次が侍を嫌う理由に繋がる様に思います。 『侍は目的のためなら人を殺す』 結局お鶴にも武家の血が流れていたということなのでしょうか。 そう思うとゾッとするお話でした。

ちょっとおかしなところ

悟自斎を誘拐して3人の娘の居場所を聞き出そうとしますが、この時点ですでに1人は殺害されていますし、もう1人は誘拐されています。 残るはお妙一人のみのはずですし、主水正側はそれを良く知っているはずなのでちょっと妙ですね。 お千代に関しては悟自斎の尋問シーンの公判に成否をお歌が報告するので、誘拐殺害計画の最初から最後までお歌の独断だったすれば居場所を含めその情報が伝わっていなかった可能性もありますが、お雪殺害はお歌自ら主水正に報告をしていますので把握しているはずですね。

また見世物小屋の3人の連れ子のうちの一人がご落胤であるという情報をいつの間に知ったのでしょうか? 平次のセリフによると胸にアザのある18の娘がすでに4人殺されているということでした。 であれば、主水正は『ご落胤は18歳で乳房にはアザがある』という情報しかつかんでいなかったことになります。 途中から見世物小屋にご落胤ありという方針に切り替わっているのが、ちょっと合点がいきません。

それでは、また。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です