【あらすじ・ネタバレ・感想】『無法松の一生』(大映/1943年)

こんにちは、館主のおのまとぺでございます。

今回は1943年の名作映画『無法松の一生』のご紹介でございます。

作品情報

  • 公開日:1943年10月28日
  • 上映時間:99分
  • 製作・配給:大映

あらすじ

明治の小倉、町から追放されていた『無法松』こと松五郎(阪東妻三郎)が帰ってきた。 けんかっ早いことで有名な松五郎だったが、その一方で竹を割った様な性格と気風の良さは評判で小倉では知らないものがいない程だった。

ある日、軍人・吉岡小太郎(永田靖)の倅、敏雄(沢村アキヲ)が堀に落ちてケガをしたところに出くわす。 松五郎は彼を助けて家へ運び、その縁から吉岡家との付き合いが始まる。

しかし、その後小太郎が風邪をこじらせて急逝。 あまり活発でなかった敏雄を心配した、小太郎の未亡人・よし子(園井恵子)は何かと松五郎を頼りにし、松五郎もまたよく敏雄の面倒をみた。

そんな中で敏雄は大きく育っていき、やがて松五郎との関係にも変化が訪れる。

スタッフ

  • 監督:稲垣浩
  • 原作:岩下俊作
  • 脚色:伊丹万作
  • 製作:中泉雄光
  • 撮影:宮川一夫
  • 音楽:西悟郎
  • 録音:佐々木稔郎
  • 設計:角井平吉
  • 編集:西田重雄

キャスト

  • 富島松五郎:阪東妻三郎
  • 結城重蔵:月形龍之介
  • 吉岡小太郎:永田靖
  • 夫人よし子:園井恵子
  • 吉岡敏雄:川村禾門
  • 敏雄の少年時代:沢村アキヲ(長門裕之)
  • 宇和島屋:杉狂児
  • 撃剣の先生:山口勇
  • 巡査:葛木香一
  • 熊吉:尾上華丈
  • 木戸番の清吉:小宮一晃
  • 松五郎の父:香川良介
  • 松五郎の継母:小林叶江
  • 松五郎の少年時代:町田仁
  • 奥大将:荒木忍

感想

心が温かくなる映画でした。

この作品は明治30年を舞台としており、時代劇でもない、かといって現代劇でもない映画でもあまり観たことない近代日本を描いています。 ここが非常に興味深い。 主人公の松五郎が駕籠かきでもタクシー運転手でもなく人力車夫ですし、預金通帳が手書きだったり時代背景も含めて非常に興味深い映画でした。

全編を通して義理人情が描かれており、ハートウォーミングなシーンも多々あります。

松五郎が母親に怒られて家から追い出されて遠くの父親の働く場所まで一人で歩ていき、やっとの思いでたどり着いてホッとしたのか泣き出してしまうシーンはこちらまでもらい泣きしてしまいました。

結城の親分にして『珍しく気風のいい男やった』と言わしめた松五郎。 そしてラストシーンは持ち主のいなくなった人力車が、路地で遊ぶ子供たちを松五郎に代わって見守るかの様なショットで物語は終わります。 このラストシーンも好きです。

キャストについて

主演は日本映画史に燦然とその名を残すバンツマこと阪東妻三郎さん。 ワタクシにとって本作が初めてのバンツマ映画でした。 かねてから古畑任三郎で有名な田村正和さんのお父様であることは存じていたので、田村さんの様に線の細い上品な感じの俳優さんなのかと勝手に想像していたのですが、この映画ではまさに『度胸千両入り』の男らしい九州男児を演じていらっしゃってビックリでした。

吉岡家の未亡人役の園井恵子さんが大変美しいです。 軍人の妻役として和装の気品ある夫人を演じていらっしゃいました。 このあふれる気品はやはり元タカラジェンヌだからこそ為せる業でしょうか。 

ワタクシ的に特に印象的なのはちょうちん行列の日ぼんぼんが喧嘩に行く前、相談のため松五郎を訪れるも『あのぼんぼんが喧嘩する様になった』と逆に諭され嬉しいような心配なような複雑な笑顔を浮かべるシーンです。 あの表情はドキッとさせられるものがあります。

あとは、ラストの松五郎を悼むシーンで一瞬だけ映る悲しげな園井さん。 こちらも息をのむ美しさです。

なお大変美しい方でしたが、広島を巡業されている際に原爆の爆発に遭遇し原爆症で亡くなってしまったそうです。 非常に残念なことです。

少年時代の敏雄を演じている沢村アキヲという子役さんですが、この方なんと子供のころの長門裕之さんです。

宮川一夫さんのカメラワーク

本作は日本映画界の巨匠にして世界的カメラマンであった宮川一夫さんが撮影を担当されています。 作中幾つも印象的なカメラワークがありました。 印象に残ったものを挙げてみたいと思います。

オープニングの人力車を非常に低いアングルから撮っています。 地面にカメラを埋めているんじゃないかって程のローアングルです。 ただ人力車が走り去るだけのシーンなのに、自分が置いていかれてしまう様な寂しさの漂う映像になっています。

映画冒頭、2階から街を見下ろしていたカメラがシームレスに人の目線より下まで移動します。 ドローンのある現代では簡単ですが、当時どの様に撮影したのか非常に気になるところです。

幼い松五郎が父親の許へ向かう途中、涙で滲んだかの様に画面の縁がぼやけています。 松五郎の不安が伝わってくるかの様でした。

大変有名な祇園太鼓シーンでは、カメラのパンを多用して勢いを出すカメラワークが用いられています。

極め付けは多重露光を2重3重に用いた、幻想的な走馬灯のシーンです。 子供たちの踊りや松五郎の笑顔、その他様々な思い出がオーバーラップして去来する幻想的なシーンに仕上がっています。 この映像は一度撮影しては巻き戻して、フィルムの同じ部分に重ねて撮影するという作業を繰り返して作られたそうです。 緻密な計画と管理が無ければすぐに台無しになってしまう職人業です!!

カットされてしまったシーン

こちらの作品は戦時中の内務省と終戦後のGHQによってそれぞれ検閲が行われ、いくつかのシーンがカットされてしまったそうです。 私が観たバージョンでは、祇園太鼓のあとに突然走馬灯のシーンに入り、そのあとすぐ残された吉岡夫人と友人たちが故人をしのぶシーンに入ります。 『ワシの心は汚い』というセリフがなく、酒におぼれて雪の中で息絶えるシーンもありませんでした。 なので松五郎がよし子をどう思っていたのか、なぜ死んだのかが全く描かれていません。 GHQのカットしたシーンは見つかったそうですが、内務省の方はもう見つかることはないでしょう。 本来はどう描きたかったのか気になりますので、三船敏郎さんのリメイク版も見てみようと思います。

それでは!!

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